atelier〜other side


 薄い布地を通り越して春だというのに冷たい気配がしみてくるのを清はまるで人事のように考えていた。

 はだけられ、仰向けの体にするすると優しくて残酷な風が這う。
 それは今まで自分を捕らえていた手のように何の戸惑いもなくその肌を離れた。

 するりと障子が開かれ、かたんと閉まる。

 流し忘れた涙が振動で一筋だけ落ちた。


 ぎこちなく外にでると、早咲きの桜が散り始めていた。
 どこから飛んでくるのか、大量の花びらが廊下を埋め尽くす勢いで積もっている。

 きちんと身繕いを済ませた。その襟元をもう一度直す。
 そうしてしばらくそこに立った後、おもむろに一歩踏み出す。もし戸惑ったらそれこそが罪なんだ。


 なにやら楽しげな声が一枚戸を隔てた向こうでしている。

 さっきあれほど気にして直した襟元を、清はぎゅっと掴んだ。

 そして自分でその襟を左右に引き、帯のわずか右に合わせ目が来るようにする。
 すると自然、その白く凹凸のない胸から肉のついていない腹、そしてひざから少し上、太ももの終わりあたりから足先にかけてが露わになる。

 そのまま引き戸をさらりと開けた。
 思った以上に摩擦がなくて、期待したような音は出なかったが、それでも人の気配に、洋二郎と千夜が振り返る。

 清の白い肌に二つ三つ赤い痕がついている。千夜は眉を顰めた。

 「すみません。お茶をいただきたくて・・・」

 掠れた声で微笑む。

 「それより、清ちゃん、その痕・・・」

 「これですか・・・?」

 そっと撫でる。

 「清ちゃん・・・」

 それ以外になど何も・・・。

 「・・・蚊にかまれすぎやろ・・・。あかんよ、ただでさえおいしそうなんやから。蚊帳の中で昼寝せんかったん?」

 ぴくりと指先が震えた。千夜の背後に隠れて見えない洋二郎が笑った気がした。

 「私、軟膏とって来るわ。洋二郎、清ちゃんにお茶入れたって?」

 軟膏軟膏といって、千夜は家の奥に行ってしまう。

 ふと顔を上げた先にはやはりおかしそうに肩を震わせている洋二郎が見えた。

 「・・・何のつもりだ?」

 「別に。ただのどが渇いただけです。」

 顔は横に向けたまま、洋二郎が目線だけ清に向ける。

 「哀れだといって欲しいか?」

 清が唇をかむ。

 ふいっと洋二郎が清に近づく。そして顎に手を当て清に面を向かせる。

 清はにらむ目に力を込めようと歯を食いしばる。

 顎に当てられた手がするりと清の視界を覆った。

 唇が戦慄く。

 しかし体温はそこにではなく清の髪の毛に与えられた。

 「散りだしたか。・・・櫻だ」

 そうして放りだされた花びらがはらはらとまった。

 洋二郎はそれきり清に興味をなくしたのか、軟膏を探しにいったまま帰ってこない千夜をおっていった。

 清は振り返らなかった。そうしてまた元のように襟を直す。景色は一度もぼやけなかった。

 春になると必ず咲き、散る櫻と間断なく生きていてもいつか死ぬ自分とでははたしてどちらが儚いか。
 傷つけたかったのが誰であったかもう朧気だった。




作者言い訳

 ごめんなさい続きます。もう何に謝ったらいいか、わからねえよこんちくしょー!!という気分です。
 忘れてください。さっぱりと。
 そしてやっぱりへたれていく洋二郎。やつはそういう運命なのか???もう痛すぎて声もでません。あうち!


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